『工場長と平社員』 第9回

2010年06月16日 18:36



──第7回目からの続き。






【???】
「……フッ、情けない。お前があの平社員に嵌められたことを、
 歳のせいにするとはな。落ちぶれたものだ」

【元・工場長】
「なっ……なんだと!? お前は一体……!」

【ママ】
「……あら? お客さん、いつの間にそこに居たの?」






【セミ】
「ふふ……私の名は蝉五郎。人呼んで『セミのヌケガラ』……」

【元・工場長】
「いや、その呼ばれ方は超カッコ悪いぞ」

【ママ】
「あぁ、思い出したわ。この近辺じゃあセミのヌケガラ並みに
 影の薄いことで有名なセミさんじゃない」

【セミ】
「そうだ……ふふふ、恐れ入ったか」

【元・工場長】
「いろんな意味で恐れ入ったよ」





【元・工場長】
「……で、何だって? あんた、あいつのことを知ってるのか?」

【セミ】
「あいつか……あいつは星になっちまった」

【元・工場長】
「いや、昔悪さをしていた頃のダチの話じゃなくて。
 あの平社員のヤツのことだ」

【セミ】
「あいつか……知っているもなにも……。
 くっ……今思い出してもはらわたが煮えくり返る……!」

【元・工場長】
「な……何かヤツにされたのか?」



【セミ】
「俺も実は……あの工場で働いてた」

【元・工場長】
「なっ……なんだと!? しかし俺が入社した時には、
 あんたなんかあの工場内で見なかったぞ?」

【セミ】
「当然だ。俺もあの工場での肩書きが『工場長』……。
 俺が工場を去った後に穴を埋める形で入ってきたのがお前だ」

【元・工場長】
「ええええ!? あ、あんたも工場長だったのか!
 俺の先輩って……じゃあ、何であんたは辞めたんだ?」

【セミ】
「……だいたい予想はついているだろう。
 当時は俺の部下でもあった、ヤツが一枚噛んでいるのさ」

【元・工場長】
「……ヤツか! あいつ、俺以外にも以前からそんなことを……!」

【セミ】
「そう、そして今話したのは全てウソだ」

【元・工場長】
「ウソかい!! 誰だこんなオッサン連れてきたのは!!」

【ママ】
「あなたもなかなかのオッサンよ」

【元・工場長】
「いや、そこ無理やり入ってこられても。十分分かってるよ」







【セミ】
「俺は今、細々と居酒屋をやっている」

【元・工場長】
「なら何故わざわざこの店に来て飲んでいる」

【セミ】
「カエルが好きだからだ」

【元・工場長】
「もうこの店、カエル専門店にすればいいと思うよママ」

【ママ】
「お断りします」

【元・工場長】
「そこはハッキリとお断りするんだね。まぁいいけど」

【セミ】
「そう……俺がやっている居酒屋に先日、
 その平社員とやらが飲みに来ていた」

【元・工場長】
「……一人か?」

【セミ】
「いいや、もう一人居たな。
 黒いフード、マントのようなものを纏った……奇妙な男だった」

【元・工場長】
「そ、そんなヤツと……あいつは、平社員は何を話していた?」

【セミ】
「さぁな……そこまでは分からん。
 何やらボソボソと小声で話していたが……。
 あまり景気の良い話でもなさそうだったぜ」






【元・工場長】
「……あいつめ、何か企んでいるに違いない。
 自分の野望の為に、目の上のたんこぶである俺を切り離したか……っ」

【ママ】
「いえ、あなたのことがただ単純に嫌いだったんだわ」

【元・工場長】
「ママも俺のこと嫌いだろう? 確信したよ。
 ……しかし、このままではヤツの思う壺だ。
 これからどうしたらいいんだ……!?」






【セミ】
「くくく……案ずるな。もう手は打ってある」

【元・工場長】
「え? な、何故あんたが?」

【セミ】
「俺にもあの平社員には、個人的な恨みがあるのさ。
 今回は俺も協力させてもらうぜ」

【元・工場長】
「ありがとう昆虫!」









     ──果たして元・工場長は、以前のような工場長に戻れるのか!?
        乞うご期待!!





                       ──つづく

     




   

『工場長と平社員』 第8回

2009年06月24日 21:53



──遡ること、2年前の2人……






【平社員】
「あのぉ……ちょっと聞きたいことがあるんですけど」

【工場長】
「お? どうした? 何か仕事のことで分からないことでもあるのか?」

【平社員】
「いえ、仕事のことは工場長よりも把握してます」

【工場長】
「ほう、さりげなく喧嘩売ったね。でも残念、俺は今、その仕事が忙しいんだ。
 お前の相手をしている暇などないのだよ」

【平社員】
「何をバカなことを。あなたは私の教育係のハズだ」

【工場長】
「知っているが、お前の態度が気にいらない」




【平社員】
「まぁまぁ、そんなこと言わず、聞いてくださいよォ」

【工場長】
「何だよキモチワルイ。お前のあだ名は今日から”キモイ”だ」

【平社員】
「まぁ、そのあだ名は工場長が既にそう呼ばれてますけどね」

【工場長】
「誰だ最初に俺をそう呼び始めたヤロウは。大体想像つくが」

【平社員】
「僕です」

【工場長】
「分かってる。それで? 聞きたいことって何だ?」



【平社員】
「あぁ! そうです、前から疑問に思っていたのですが……。
 夏って、何で暑いんですか?」


【工場長】
「ふむ……なかなか哲学的な質問だね。
 そんなことを聞かれても俺は、夏の気持ちが分からないからな……」

【平社員】
「じゃあ、今すぐ夏の気持ちになってみてくださいよ。
 ほら、今のあなたは夏ですよ。もう熱気ムンムンの蜃気楼です。
 日本の夏がジメジメしてるのはお前のせいかコノヤロウ!!」

【工場長】
「痛い! な、何するんだ夏に!? 俺は夏だぞ!?
 選ばれし四季の中の一人の夏に拳を振り上げるたァどんな了見だ!」

【平社員】
「ふんっ、そんな四天王のような存在のクセに、
 気温をアホみたいに上昇させるだけしか能の無い落ちこぼれ夏おじさんめ!」

【工場長】
「何をォォォォォ!? 少なくとも、冬とは差別化が出来ているはずだ!
 何も出来ないよりかはマシだぞ! しかも暑くさせることによって、
 アイスやビールが格段に美味くなるハズだ! 夏の俺ってエライ!」

【平社員】
「残念ながら、僕はアイスもビールも苦手です。
 だから夏も苦手です。というかアンタ殴っていいですか」

【工場長】
「いや、落ち着きなさい。今は夏になりきってはいるが、
 俺はお前も良く知っている、町工場のしがない工場長なんだ、本当は」




【平社員】
「そんなこと分かってますってぇ。
 とりあえず、質問に答えてくれるだけでいいんです。
 どうして夏は暑いんですか?」




【工場長】
「……………………」

【平社員】
「……………………」




【工場長】
「そ……それはだな、アレだ。うん。
 夏になると、町のお嬢さん方が皆、こぞって薄着になるだろう?」

【平社員】
「はい」

【工場長】
「そうすると、空に浮かぶギラギラの太陽もそのお嬢さん方が目に留まるわけだ」

【平社員】
「はい」

【工場長】
「するとどうだ、太陽も俺たち男と何ら変わらないのさ。
 女性の露出度が高くなることから、目のやり場に困り、
 照れ臭くなって顔を真っ赤にするワケだ。
 それが、太陽が熱い理由さ。真っ赤になることによって、火照ってくるからね」



【平社員】
「…………」

【工場長】
「…………」

【平社員】
「うわぁ……」

【工場長】
「何そのリアクション。ここは夏の化身である俺と握手が出来るチャンスだぞ」



【平社員】
「そもそも、暑くならなければ女性も薄着にならないワケで……。
 どっちが先ですか?」

【工場長】
「え、そんなにマジメな返しされても。そこまで答えを用意出来ない俺はどうすれば?」

【平社員】
「とりあえず、殴らせてください」

【工場長】
「ふふふ、しかし惜しかったな。
 俺は今、夏の化しn痛ェ! 夏が殴られたァァァ!!」








                        ──つづく

『工場長と平社員』 第7回

2009年04月04日 21:44







──ガラガラッ・・・・・・










【元・工場長】
「……邪魔するぜ」



【スナックのママ】
「あらぁ、いらっしゃぁい。久しぶりね~」











【元・工場長】
「つい最近までは、仕事の方が忙しかったからな……」

【居酒屋のママ】
「じゃあ、今は?」

【元・工場長】
「……黒服に追い出されてから一ヶ月。
 そろそろ着慣れた作業着が恋しい頃だ」

【ママ】
「あらそう……。
 ほら、いつまでも入り口に立ってないで、カウンターに座りなさいな。
 簡単な料理くらいならすぐに用意してあげるわよ」

【元・工場長】
「うぅ……すまねぇ、姐さん」

【ママ】
「いい加減、その姐さんって呼ぶのやめない?」

【元・工場長】
「いや、それなりの雰囲気で」







【ママ】
「ま、いいけど。
 はい、どうぞ。焼け焦げた肉のステーキよ」







【元・工場長】
「……それ、簡単?」

【ママ】
「簡単よ。焦がしたらいいんだもの。
 見てなくていいから楽だわぁ」




【元・工場長】
「何の肉?」

【ママ】
「カエル」

【元・工場長】
「カエルか……なんか微妙なところだな。
 ゲテモノでありながら、普通に食べてるところもテレビで見るし……」




【ママ】
「ちなみに私は、これが大好物なんだけどね」

【元・工場長】
「えっ、マジすか」

【ママ】
「ウソよ」

【元・工場長】
「お、ちょいと遅れたエイプリル・フールだな。
 姐さんもお茶目なところがあるじゃないか」

【ママ】
「いや、あなたの顔見てたらだんだん腹立ってきて」

【元・工場長】
「……ふふ、こいつァ恐ろしいカミングアウトだ。
 俺、もう帰った方が良さそうな気がする」










【ママ】
「まぁまぁ、せっかく来たんだしゆっくりしていって。
 今日は他にお客もいないことだし」

【元・工場長】
「そういやそうだな。どうして?」

【ママ】
「今日のメニューは全部、カエルの肉スペシャルだからかしら」

【元・工場長】
「そんなこったろうと思ったさ。
 日本人にはあまり馴染みがないしね。
 そして姐さんが何故そこまでカエルに拘るのかを知りたい」

【ママ】
「知りたい? 高くつくわよ」

【元・工場長】
「じゃあいいです」







【ママ】
「お酒は……いつものカエル焼酎でいいわね?」

【元・工場長】
「いや、いつものじゃないよ。いつものは芋焼酎だよ。
 そんな、カエルがそのまま漬け込まれていそうなお酒はリザーブしてないよ」

【ママ】
「あら、そうだったかしら?
 そういえば、これはあの子が好きだったかしらね」

【元・工場長】
「あの子?」




【ママ】
「そう、名前は何て言ったかしら……あの、あなたの工場の社員の……」

【元・工場長】
「……あいつか」






【ママ】
「どうしたの? ブサイクな顔がもっとブサイクになったわよ」

【元・工場長】
「姐さんが普段、俺のことをどう思っているのかも同時に分かったよ。
 ……いや、気にしないでくれ。これは俺とあいつだけの問題だ」


【ママ】
「そう。でも、変な話よねぇ。工場長のあなただけ、リストラなんて。
 他の平社員の子たちは誰もクビになんてなってないのに」

【元・工場長】
「……ふふふ、これが時代の波……ってヤツかな。
 若い世代には、こんなオッサンがいくら頑張ったって無理なのさ」

【ママ】
「ブサイク……」

【元・工場長】
「いや、今は普通にイケてる顔を作ったつもりなんだけどね」









【???】
「……フッ、情けない。お前があの平社員に嵌められたことを、
 歳のせいにするとはな。落ちぶれたものだ」



【元・工場長】
「なっ……なんだと!? お前は一体……!」


【ママ】
「……あら? お客さん、いつの間にそこに居たの?」













ママにも気づかれないほど、影の薄い男。
カウンターの隅で酒を煽りながら、元・工場長を嘲笑した。



一体、この男の正体は──!?














                             ──つづく